むしのこえ
驚いた
虫の聲が聞こえる
静かな夜に
風鈴のような鳴き声で
ざわつく
今日も雨が降って
ペンが進む
使わなくなった万年筆の 筆跡に残るインクの流れが好きだった
手書きの文字の強弱や気持ちがのったような走り書き
いと惜しい
遠い記憶
青色と脆さと痛みを描いた小説は
読み易さと
死の平等をお思い出させてくれた人だったので
勢いこんでいたのに退屈で
面白くないのに引っ掛かって
夜を延長させている
こうやって思い返す
毎日に一生懸命に冷たい自由の海を泳いでた
とりつくしまもなくて
傷つけて傷ついて 傷ついたふりをしては傷つけて
胸がざわつく
いまもまだ 飛びたいって想う
風待ちの港の話や二日月という銅版画
日常は目まぐるしく
その日常ゆえにしあわせの本質をみる
繰り返しのようにする奥様とのケンカはきっと
いつか想い出しては笑えるしあわせの1ページになる いまはとても腹立たしくても
青い記憶は痛くて脆くて美しい
そしてきっと薄れて消えていく
色褪せても千切れても思い出せない事が増えても
あなたとのいまは
あなたたちとのいまは
きっといつでもそばにある
夏が来た
ゆっくりと
心の底に降りてゆく
とん
水底に着いた足音
ふさ
水底に砂が舞い上がって
ゆっくり
寝転ぶカラダに落ちてくる
静寂という混沌に身を委ねて
水面を見上げる
おぼろげな鏡に映る姿に
おかえり
ただいま
通り雨
はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
手をつないで走りだす
突然の雨が
白い夏の制服をあっという間に濡らして
曲がりくねった細道は
深い緑の木々の下
坂道を越えて細い橋まで
走っていく
ふたりの後ろ姿は
いつの間にか
俯瞰したように
高いところから見下ろすように
映画のワンシーンを見てるよう
ただ見つめて
いつまでも見続けてしまう
いまも目を閉じて
いつかの夏の通り雨
酸欠気味
『酸欠』
水泳部に所属していたずいぶん昔に
練習の後の帰り道に
深呼吸をして
肺が縮こまっていた事に
しっかり呼吸が出来ていなかった事に
気づく
もう一度めの深呼吸
カラダが冷えていた事に
うだるような暑さをして温かいと思う事に
水の中にいたことを想う
引っかかった呼吸
冷えた体
滞る血液をして
酸欠という言葉を載せる
夏の想い出
今はときどき
クーラーに埋もれて
酸欠気味
遠い日を想ふ